その時、僕は色のない世界にいた。
結局何も出来ず、自分の無力さに打ちひしがれながら、ただ流れる雲を眺めていた。涙すら出ず、ただ頭の中で「どうすればいい?」というコトバだけが渦を巻いていて、ただその苦しみから逃げ出したい気持ちで一杯だった。
頑張らないといけないのは分かっていたけど、どうしても一歩が踏み出せなかった。「あの時もっと頑張っていれば」なんて後悔をしたって意味がないのはわかっているのに、頭の中でそのことがグルグル回り続けた。
結局、色を取り戻すまでには暫く時間を要すことになった。何も出来なかった悔しさよりも、その場から逃げだしたかった自分自身の弱さに心底嫌気がさした。
「もっと強くなりたい」そう口にしたとき、やっと悔しさがこみ上げてきた。空っぽだった胸の内に、少しずつ少しずつ悔しいキモチが貯まっていって、最後にやっと涙を流すことができた。
もう二度とこんな想いをするのはごめんだったし、このままじゃ何も守れないただのチキン野郎だとすら思った。だからとにかく仕事がデキルようになりたかったし、どんな苦境からも逃げない強さが欲しいと心から願った。
○○○
知らず知らずの内に人を傷つけて、嫌な気持ちにさせて、そんなことにも気づけなかった自分が嫌いで嫌いで仕方が無かった。
自分の不用意な一言が、無神経な行動が、大切な人を傷つけて、自分から遠ざけている。そのことに気づいた時、猛烈な虚無感だけが僕の中に残った。今でもそういう自分の一面を思い出すと猛烈な吐き気に襲われる。
もっと、良いやつになりたかった。偽善と言われても、誰に対しても優しくありたいと思った。嫌われ役は買って出ても、誰かを傷つけることだけはなんとしてでも避けたかった。
仕事で感情的になっちゃダメだって分かっているはずなのに、感情を制御しきれなかった。
弱い自分を守る為に無駄にまわりに噛みついて、結局は身を滅ぼした。献身的でありたいと想う気持ちと裏腹に、保身的な態度を取っていた。そして、後になって「俺は嫌なヤツだ」と後悔の念に襲われた。
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見栄を張ってうわべを取り繕って、かっこつけて、都合が悪くなると言い訳して責任から逃れようとした。横柄な態度は、自信のなさの裏返しだった。
人として、社会人として当たり前のことを当たり前にこなせるようになりたかった。何に対しても真摯に向き合いたかったし、自分のやるべき事に100%全力投球したいと願った。
なのに、怠惰な僕は弱い気持ちに負けて、手を抜いたり、大切な事をないがしろにする。人の役に立ちたいと願うくせに、面倒な事から逃げることばかり考えていた。
そんな理想とは裏腹の行動に走る自分が嫌いで嫌いで仕方なかった。そんな自分と出会う度、ただ誠実でありたいと願った。
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これまでの人生で、何度となく弱くて嫌な自分と向き合ってきた。
「強く、やさしく、誠実に」
何度、この願いを口にしただろうか。
今なお、人格的に未熟であり、そのせいで失敗したり、周りに多大な迷惑を掛けている。ただ、それでもほんの少しは強くなれたろうと思うし、人に優しくできるようになったとも思う。歩みは遅くとも、一歩ずつ前には進んでいる。
これまで自分がやらかしてきた事を思えば、こんな僕でも愛してくれる家族や、受け入れてくれる仲間がいることに感謝せずにはおれない。その存在は支えなどと言う生ぬるいものではなく、僕が生きている意味そのものであると言ってもいい。
とうの昔に見放されてのたれ死んでいてもおかしくなかった僕は、今日も家族や仲間がいることで生き伸びることができている。そんな周囲の人々に報いることができなければ、僕は本当にただの勘違いした馬鹿野郎なのだ。
どうあがいても、僕という人間が生きてきた日々を消し去ることは出来ない。
例え消し去ることができても、嫌な自分と自分のしでかしてきたこと以上に、自分が得てきた経験や、周囲の人々との思い出の方がでっかくて素敵でかけがえのないものだから、絶対に過去は消し去りたくはない。
僕は相変わらず駄目なやつかもしれないけど、僕が歩んできた一日一日はとてもかけがえのないものだ。
だから僕は、駄目な自分もひっくるめて、今日まで歩いてきた日々をただ誇りに思う。そして、この素晴らしき人生を悲観という色で染め上げるのでは無く、一歩、また一歩と「強く、やさしく、誠実に」なれるよう歩んでいく道を選びたい。