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OECD調べの「日本人の労働生産性は低い」についてちょっと調べてみた

77H

物事というのは都合の良いように解釈される物だし、データの一部を切り取って「ドヤ!」と持論の裏付けだとアピールしたすること自体は一種のプレゼンテーションだから悪いとは思わない。

その中でもよく恣意的に使われるデータの一つが『OECD2013年調査では「日本人の労働労働生産性は加盟34カ国中21位、先進7カ国中最下位」』って話。

つまり、日本人は生産性低いよねーという日本人の多くが持っている日本人観。実際、僕もこういう話を鵜呑みにしていて「日本人は生産性が低く、残業してやっと欧米と同程度」ってずっと信じていた。

【12:32追記】ブコメを見ると、この記事が「労働生産性」を否定している様にとらえられている様なので補足。僕自身もこの指標は意味があるものだと思ってます。問題なのは、この指標値を(恣意的なのか理解せずになのかは別として)誤用している人が結構いることで、皆それにだまされないように気を付けてねー、という注意喚起が本記事の趣旨です。

■よくよく考えたらおかしい気がしてきた

でもね、実際海外の人達と仕事してみると、日本人の生産性が際立って低いとは感じないし、なんなら日本人の方が仕事は丁寧だし、確実だし、なんだかんだ勤勉だから覚えも早いし、手戻り考えればむしろ生産性高いじゃんって思う場面が一杯あったわけです。

何かおかしいなーと思い、よくよく考えてみたら、業種業態であったり、商慣習との相性なんかもあるわけだから、一概に「日本人は生産性が低い」なんて理論はどう考えてもファンタジーでしかないなと。

しかも、OECD調べって言ったって、僕はOECDからアンケートを受けたわけでも無いし、そんなOECD先生から「お前は生産性が低い無能野郎だ!」と言われてもなんだか無性に腹が立つ

まぁ、さすがに「OECD調べでは」とか書く人は、原典に当たって、どんな調査を行って、どういう計算式から指数を割り出したかぐらいは調べてるとは思うんだけど・・・僕も何で「お前は生産性が低い」といわれにゃならんのか気になったので、ちょいと調べてみることにしました。

■というわけで、調べてみた

で、ググってみたよ。「日本人 労働生産性」って。 

日本人 労働生産性 Google 検索

さすがにOECDだから英語で 調べなきゃいかんかなって思ったけど、意外にもこんなeasyなキーワードで目的のページを見つけてしまったので、とりあえず思いついたことを調べて見るのは大事だなと感じた次第。

公益財団法人 日本生産性本部」から画像を拝借してきたのだけど、労働生産性は以下の感じ。

NewImage

これみてピンと来た人は割とこういう国際比較の数値をよく見てる人だと思うんだけど、上位の国は割と一人当たりのGDPのランキング国と似通っている。(OECD加盟国の中だと、オーストラリアやスイスの順位が結構違うんだけどね)

それもそのはずで、OECDが出している労働生産性は、購買力平価換算のGDPを就業者数で割っているから。

 Www jpc net jp annual trend annual trend2013 3 pdf

一人当たりのGDPランキングは、購買力平価換算していないGDPを、全人口で割っているから、似ているけど意味合いは結構違う。

これ、つまりどういうことかっていうと、とりあえず業種業態働き方問わず1年間に生み出された付加価値である「GDP(国内総生産)」を購買力平価でならして、「就業者」と自己申告している人の数でエイヤっと割っているに過ぎないと言うこと。

要するに、農業だろうと、公務員だろうと、ブラックだろうと、サラリーマンだろうとパートだろうと契約だろうと派遣だろうとフリーランスだろうと、とりあえず「就業者」として国が把握していれば、母数に含まれるということ。対して割られる側のGDPは家計支出は勿論、政府支出、輸入、利子だって含まれてるわけだからなんというか、割と「おおらかな指標値」なわけです。

暴論を言えば、政府がバカみたいに政府支出を増やしてGDPを押し上げれば、労働生産性があがるわけですからね。あら不思議。

ただ、だからといって「実は日本人の生産性は高いんだぜ?」なんて言うつもりは毛頭ない

うちの業界でも「成果」とは関係ないところに凝ったりするし、品質へのこだわりがあったり、取り決めがファジーで弱い側が泣きを見たり、色々非効率な部分もあるのはたしか。「最小限の労力で求められるギリギリの成果を出す」みたいな芸当ができる欧米のビジネスパーソンから学ぶべき事は多い。

ただ、OECDが言うところの「労働生産性」は国全体の産業を足して就労者数で割った「国全体の平均値」だってことだけは知っておくべきじゃないかなと。

例えば、このデータを根拠に「ホワイトカラーの生産性が云々」とかいうと、かなり滑稽な主張に聞こえてしまうので気を付けて欲しい。逆に「日本は他の先進国と比べておしなべて付加価値の生産量が少ない。これを押し上げるために金融業やサービス業に産業をシフトさせよう」とか言う形で使うと結構しっくりくる。

ちなみに、「労働生産性の国際比較」というレポートの中では以下の様な考察が加えられている

なお、労働生産性が最も高かったのは、ルクセンブルク(128,281ドル/1,359万円)であった。ルクセンブルクは鉄鋼業のほか、ヨーロッパでも有数の金融センターがあることで知られ、GDPの半分近くが金融業や不動産業、鉄鋼業などによって生み出されている。こうした労働生産性の高い産業分野に就業者の3割近くが集中していることもあり、国レベルでみても労働生産性が極めて高い水準になっているものと考えられる。 

国際的な価格競争にさらされがちな製造業を国の主要産業に据えている現状で「OECD曰く日本人は生産性が低い。」とか言ってたらアホ以外の何者でもないわけです。まぁ、付加価値を出しづらい製造業が世界で向こう張っている様は壮観ですけどね。

ちなみに、「労働生産性の国際比較」では業種別の「労働生産性」も算出されていて、報告書中だと製造業の労働生産性が掲載されている。主要先進国の中での産業生産性向上のトレンドをみても、実は日本の労働生産性は先進国と比較して落ち込んでいるわけではないことが分かる。

■時間当たりの労働生産性

ちなみに、時間当たりの労働生産性も掲載されていて、これだと日本は順位が一つ下がる。

Www jpc net jp annual trend annual trend2013 3 pdf

まぁ、この労働時間もどこまで「補足」されているかわからないから、何とも言えない。(農業従事者の労働時間ってどうやって算出してるんだろう?ブラック企業がサービス残業をさせている分がカウントされているの?・・・等)

レポート曰く、「日本の労働時間はこのところOECD平均とほぼ同程度」と言っているので、かつての「残業天国ニッポン」みたいな様相は無くなったのかもしれない。

■最後に

本当はOECDが出してる生データを見て、そのデータの妥当性検証から入る必要があるのだろうけど・・・ちょっと時間的に厳しかったので許して欲しい。とりあえず、今回伝えたかった一番のポイントは

・よく書籍やブログなどで言及される「OECD調査」の「労働生産性」は国全体の産業が生み出した「付加価値の総和」を「就労者数」で割った「国全体の付加価値の平均値」

ということだということ。指標値としては興味深いけど、産業構造や景気経済政策なんかに左右される数値でもって「日本人の労働生産性は低い」と言い切ってしまうことに多少なりとも違和感を覚えてもえたら幸いだ。

最後に、この手の「xxx調査によると」というのは、原典に当たってみると都合良く切り貼りされていたり、最悪の場合は他の人が言っている「xxx調査によると」を原典にもあたらずそのまま引用している場合もあるので、あまり鵜呑みにせず、必要であれば裏取りをするよう心がけた方が良いだろう。

参考文献


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6 COMMENTS

名無しの投資家

GDP=人件費+企業の最終利益(大雑把に言えば)

つまり、生産性を向上させるために人件費を削ると、生産性が下がることになります。
1000円の仕事をして500円しか請求しない国と、1000円請求する国と、どちらが統計上生産性がたかいでしょうか?
そして、どちらが日本でしょうか?

Monolith LoL

・パート等を含めているから
・欧米はGDPを政府が押し上げているため高い

ということでよろしいですか?

パートなどの非正規雇用の人口比は欧米のほうが高いですよ。
GDPも政府がおし上げるのも限界があると思いますが。普通に国民が生産する寄与が99.9%かと思います

Shinya Kita(@beck1240)

コメント有り難う御座います。
まず、この記事の意図は

>産業構造や景気経済政策なんかに左右される数値でもって「日本人の労働生産性は低い」と言い切ってしまうことに多少なりとも違和感を覚えてもえたら幸い

ということです。
もう少し言い方を変えるとOECDが調べている労働生産性は「日本という国の国民一人当たりが生み出す付加価値は世界で20番目」であるという指標値で「同じ仕事をやったときに欧米人に対して日本人の生産性が低い」という指標値ではない、という主張でございます。

で、頂いたコメントに対してご回答差し上げますと、

>・パート等を含めているから
>・欧米はGDPを政府が押し上げているため高い

非正規雇用だから生み出す付加価値が低いとは本文中には書いておりませんので、1点目は私の主張するところではないのですが、このことが労働生産性を押し下げることになるかと言われれば、なる可能性はあるだろうと思います。

但し、議論のポイントは欧米と日本の正規雇用と非正規雇用者の比率の差ではなく、あくまで産業構造(非正規雇用者でも高い付加価値を生み出すビジネスをより多くやっている)の問題に収斂するだろうと考えており、記事中ではルクセンブルクの例を引用したように、産業構造にのみフォーカスを致しました。

いずれにしても、この事について論じるのであれば「非正規雇用者の生み出す付加価値」と「非正規雇用者の就労人口に占める割合」のデータを元に行う必要があると思います。

2点目については、本文中に極論として政府の財政支出について触れましたが、欧米諸国が日本よりもGDP比で財政出動が多いから、という主張は行っておりません。これも1点目と同じく「産業構造」の問題だと思っています。

ちなみにですが、日本政府はだいたい96兆円、地方も含めると150兆円ぐらいなので、GDP比率で言うと33%程度ですね。この比率は世界的に見ればだいたい真ん中ぐらいですね。

http://ecodb.net/country/JP/imf_ggrx.html
http://ecodb.net/ranking/imf_ggx_ngdp.html

ただ、本記事では「日本政府の歳出GDP比が低いから労働生産性が押し下がっている」という事を主張する意図はありませんが、「産業構造や景気経済政策なんかに左右される数値でもって「日本人の労働生産性は低い」と言い切ってしまう」指標値を使って「日本”人”の生産性は低い」と主張する人はおかしい、とは思っています。

繰り返しで申し訳ありませんが、まとめると、

・日本という国の労働生産性という指標値は先進国の中でも高くはない
・だからといって、同じ仕事をしたときに欧米人より日本人の方が生産性が低いという事を意味するわけではない(このデータをそういう主張の根拠に使う人が多すぎる)

といった感じになります。

Shinya Kita(@beck1240)

すみません、コメント漏らしていました。

会社としての生産性を上げる(売上を維持したままコストを下げる)為に、人件費を下げると国としての労働生産性(国内総生産の就労人口割り)が下がるんじゃないかって話については微妙です。企業内部留保は確かにGDPにカウントされませんが、企業の最終益は単年度で見ればGDPにカウントされますので。

ただし、企業が最終益を内部留保として保持するよりも、人件費として個人消費に回した方が消費性向(単位消費あたりが生み出す最終的な付加価値の乗数)分だけ、GDPに寄与するというのはYESだと思います。

>1000円の仕事をして500円しか請求しない国と、1000円請求する国と、どちらが統計上生>産性がたかいでしょうか?
>そして、どちらが日本でしょうか?

消費性向分を加味すれば、後者の方が最終的な労働生産性が高くなる可能性があります。ただし、付加価値という観点から考えれば、1000円の仕事をして500円の請求をする(500円が付加価値)という利潤が出る形のビジネスモデルを取れていないなら、その企業は早晩倒産することになります。(1000円の仕事が原価としての本来の価値で、500円が労働者に支払われる対価で、不正に500円が搾取されているという意図で書かれているのだと思いますが。)

勿論、格差是正や、貧困問題という観点に立って言えば、改善すべき点が多々あるだろうと思いますが、それは労働生産性の議論とはまた別の問題であろうと思っています。

Yosinari Otuka

経済の勉強を詳しくしていないので解釈を間違ってるかもしれませんが、
よく生産性が低い=労働者が働いてないみたいなイメージで経済界や政界は使っていますが、デフレであり、円高であった日本の生産性が低いのは当然だと思うのですが?
例えば原価100円の品物を1人で作った時、日本ではデフレだから105円でしか売れない、でもアメリカで作った時はデフレではないから120円でも売れる。
この時日本の生産性は1人で5円の利益、アメリカでは1人で20円の利益という生産性になるのでは?
輸出も自動車など同じものを同じコストで作っているのに円安になったら利益が増えるということは、それは生産性が原因ではなく為替が原因ですよね?
これって生産性というよりデフレや円高が原因で、労働者がさぼってるとか無駄に働いてるとかイメージを植え付ける策略ではないのでしょうか?

Shinya Kita(@beck1240)

返信遅くなり申し訳ありません。

基本的に労働生産性はドル換算で行われるので、円高はむしろ労働生産性向上に寄与します。とはいえ、購買力平価換算で為替レートによるブレはある程度修正されており、この恩恵にはあずかれていないと思います。

基本的にデフレ下では名目のGDPは押し下げられる傾向にあるのですが、これも購買力平価換算の中で修正されるはずです。

購買力平価換算というのは要するに「為替レートを物価でならす」ということなので、円高やデフレの影響は理論上排除されることになります。購買力平価自体が万能ではないので、完全ではないのですが・・。

記事中にもあるとおり、労働生産性という指標値は、購買力平価換算のGDPを就業者数で割っていますので、「労働者がサボっている」「無駄に働いている」という意味合いではありません。正しくは「相対的に労働者一人当たりが生み出す付加価値が低い」です。

また、就業者で割られるGDPというのは「政府支出」と「企業支出」、「家計支出」、「貿易収支」の合算値なので、主語としては「労働者」ではなく「産業構造」や「社会システム」であるべきです。

>よく生産性が低い=労働者が働いてないみたいなイメージで経済界や政界は使っています

のであれば、全然関係ない数値を根拠に素っ頓狂なことを言っているのだ・・位で考えて於けば良いと思います。こういった誤謬を糾すことに本記事が一役買えばと思い執筆した次第です。

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