誰かの役に立てているという実感に渇望していた頃の話

その昔、僕がまだほぼ新人同然だった2年目の終わり頃。
いわゆる”客先常駐”をすることが決まった。

通常うちの会社は人だしをしないのだが、先方の課長さんが「大事なプロジェクトだから若くて活きのいいやつ2、3人いれて欲しい」と昵懇だったうちの部長に頼み込んだらしかった。

当時の僕には、まだ実績らしい実績もなく、大した経験も持ち合わせていなかったが、若くて活きがいいという理由だけで白羽の矢が立った。

君たちはこれから、君たちの会社を背負っていく人材だ

僕は自分の人生の中でも、この時の客先の課長さんほどに僕の仕事感に影響を与えた人はいないと思っている。

というのも、それまで何ら成し遂げた経験もなく、常に「早く誰かの役に立てる人物になりたい」と思っていた自分を高く買ってくれ、沢山のポジティブな評価をくれた人だからだ。

このプロジェクトでは、色々な会社から客先に人が集められ、発注先のベンダーをコントロールするという形を取っていた。それ自体は業界問わずよくあることだと思う。

違ったのは、集められた僕らに対して「君たちがリーダーだ」と申し渡され、社内システムへのアクセスを除いて、ほぼ完全に客先と同じ権限が与えられたこと。

そして、集めらた僕らに最初に課長がかけた言葉が「君たちはこれから、君たちの会社を背負っていく人材だ。そんな貴重な人材を預かっている以上社員かどうかなど関係なくチームを作る。」といったものであったと記憶している。

自分ではそれまで「確たる成果もなく、人の役に立てない奴」だと思っていた所に「会社を背負っていく人材」と言われたことは、大きなショックであった。社会人になってはじめて、他人に期待を寄せられたことに、少なからず高揚した。

こいつとあいつは俺の両腕だ

とはいえ、3年目の若造がプロジェクトをリードすることは難しく、他社の経験豊富なリーダーの下で、僕はプロジェクトのスタートを切った。実に学ぶことの多いプロジェクトであったし、徐々にではあるが自分ができることも増えていった。

僕は当時資料作成に関してはそれなりの自信があったので、客先の課長さんに特急で様々なオーダーを貰っては、資料を作成していった。それなりに重宝して貰えているなという実感は得られていたのだけど、「こいつとあいつは俺の両腕だ」と自分を指して言って貰えたことは、本当に大きな自信となった。

それは単に客先の課長さんの人心掌握術が優れていた、ということなのかも知れない。それでも当時の僕に過分な期待と評価を下して貰えたことは「人の役に立ちたい」と渇望してた僕にとっては非常に大きな出来事であったと思う。

期待をかけ評価をフィードバックする

時々自分の後進育成が、当時の客先の課長さんのそれに凄く似ているなと思うことがある。加えて、何かしら誰かに言葉をかける必要がある時には、今まで自分が言って貰って嬉しかったことを思い返す。

  • 期待を伝える
  • 評価をフィードバックする(ポジティブフィードバックを心がける)

簡単にいえばこう言うことであるが、僕はあの時自分がしてもらった様に、冗談やうわべの言葉にならないよう、真剣に向き合って慎重に言葉を選ぶことを心がけている。

また、こういう事は人事面談や業績評価の時だけに行えば良いというもうのではない。日常的によく観察し、良いところを見つけ、面と向かって言葉に表す必要がある

正しく使われた言葉には人を動かす力がある。

変わるのは本人次第だが、それでもキッカケや励ましを提供するぐらいのことは周りの僕らでもできる。逆に適当に紡がれた言葉はただ空虚に響く。フィードバックが形骸化してしまう原因の多くはフィードバックを行う側がちゃんと向き合っていないせいである様に思う。

最後に

もしも、あの時僕があの場所にいなければ、恐らく全く違う人生になっていたと思う。

それまで内向きで、ネガティブにしか自分を見れなかった僕に、自分の良いところに目を向けさせ、自分で勝手に作っていたハードルを飛び越えるキッカケをくれた人と出会えたことは、奇跡としか言い様がない。

今でも自分の未熟さに辟易するときがある。昔であれば「なんて自分はダメなんだ」と無限ループに陥っているところだが、今はダメならダメなりに、出来ることにフォーカス出来る様になった。

僕はまだまだ、あの域にまでは達せられていないけど、せめて真摯に向き合い、言葉を選びぬいて伝えたい。