どんな本を書きたいか?と問われれば、
かつての僕が必要としていたであろう本
と答える。
僕がBLOGや本を書く最大のモチベーションは「誰かの役に立つため」であり、更に言えば「今辛い思いをしている人がちょっとでも楽になるお手伝いをしたい」というところである。
僕は僕の経験、僕が考えた事を超えて何かを為すことはできない。本を書くときも、想定読者は想像上の誰かではなく、かつて苦境に立たされ自らの不甲斐なさに涙すらしたあの頃の僕自身である。
そういう意味では僕の書きたい事柄というのは「新人時代の自分へのアドバイス」と言っても良いかも知れない。
残念ながら、光の届かない深い沼の底でどうして良いか解らずもがき苦しんでいる状態を脱する為には、最終的には本人の力で抜け出す以外に方法はない。しかし、抜け出す為の道具が用意されていれば、その状況を脱するために払う犠牲を少しは抑えることができるかもしれない。
このたび上梓する運びとなった倉下さんとの共著「シゴタノ!手帳術」は、限りなく僕が書きたかった本なのだと思う。この本には、かつての僕が必要としていた事を最短経路で余すことなく記すことができたという一種の達成感がある。
■前進感とコントロール
内容の紹介に入る前に大切なキーワードを2つ挙げておきたい。「前進感」と「コントロール」、僕が手帳やクラウドを使う最大の理由はこの2つのキーワードに集約される。
「前進感」とは、前に進んでいるという実感である。大きな挫折や失敗は大体の場合自己嫌悪や自信喪失という状態を伴う。このマイナス側に感情が大きく振れた状態の時に自分の気持ちを支えとなるのが「前進感」なのだ。
かつての僕がフランクリン・プランナーをチョイスしたのは、別に手帳マニアだからとか、凝った使い方がしたかったからではない。ライフハックも然りだ。自分の目指すところを明確にし、そこへ進むための確かな一手を打ちつづけなければ、あの頃の僕は自分自身の瓦解を食い止めることができなかったのだ。
「コントロール」とはここでは自分の於かれている状況が把握できていて、いつ何をすべきかという次の一手を自分が考えて打てている状態を意味する。秩序が崩壊し混沌の極みにあった自分の生活を立て直す必要があった。
使うツールなどは実際何でもよかった。手帳やクラウドを使ったのは、今の時代はこれらが一番最も利便性が高く、それでいてコストパフォーマンスが良かったからだ。
何故今この2つのキーワードを出したかと言えば、僕の手帳術は「複雑」だと感じられるからだ。その時に危惧しているのは、「複雑」なものを見たときに「手段と目的が逆転している」即ち「手帳術を極めるための手帳術」であると誤解されることである。
たしかに、必要に駆られ、自分で要件定義を行った上で解決策を模索し続けた結果が今の手帳術なのだから、その試行錯誤の過程を見ずに結論だけ先に読めば「複雑」に映るのも致し方ない。しかし、この複雑なシステムは僕にとって必要な事であったし、この複雑なシステムは長い時間試行錯誤を繰り返して創り上げてきた実に合理的な形なのである。
■これまで発信してきた手帳術を書ききった一冊
本書ではこれまで当ブログやシゴタノ!などで発信してきた手帳術やクラウドを用いたセルフマネジメントに関する情報を体系立てて一冊の本にまとめている。具体的にはほぼ日カズンといくつかのクラウドツール、スマホを用いて、フランクリン・プランナーの運用とGTDのワークフローを組み合わせたものである。
下敷きになっているのは次の記事だ
2011年の情報管理戦略-Chap2.スケジュール管理(フランクリン的ほぼ日 with Googleカレンダー) « Hacks for Creative Life!
本書のベックパートであるフランクリン式ほぼ日withクラウドはこの連載をベースに新たに書き起こしています
もちろん、BLOGを隅々まで読んで頂ければ本書のコンテンツに近いところまでの情報を得ることは出来ると思うが、1記事あたりで伝えたいことを伝えきる必要があるBLOG記事と、1冊を通して体系的に知識を得て貰う本では伝え方のアプローチや情報の集積度・網羅度は全く異なる。
まずは明文化されていない、もやっとした僕の手帳術というものが存在していて、それをいくつかの要素に分けてスナップショットを取っていく作業がBLOG、1冊の本という大きなキャンパス全体でどうその手帳術を表現するかを考え、常に全体での整合を考えながら作るのが本というイメージだ。
例えば、かつてBLOG記事で取り上げた下図の内容も、書籍の中では一本の大きな流れの中に組み込まれる形になる。これをBLOGで表現することは不可能ではないが、とても難しい。
まぁ、これはちょっとした自己満足の世界になってしまうのかも知れないけれど、BLOGでは表現しきれなかった体系だった自分の手帳術を書ききることができたことについて、僕自身はとても満足がいっている。万人にとって面白くて役立つ情報というワケではないかも知れないが、それなりの人に刺さる(満足してもらえる)内容に仕上がったのではないかという自負はある。
■倉下さんとのコラボレーション
ここまでは僕の話がほとんどだったが、今回実に刺激的だったのだが倉下さんとの共著だった点。全く同じツールを使っているのに、その使い方は全く異なると言うのは実にほぼ日手帳らしいなと。
倉下さんの書く文章、提唱される新しい概念に触発されることが多く、一人で書いていては到底たどり着けなかった見知というものもいくつか生み出すことができた。2人の手帳術を概念レベルで比較・理解することで、僕はより正確に僕が書くべき内容を理解することができた。
共著という形を取った場合、そのアプローチがコラボレーションなのか作業分担なのかでできあがりは大きく異なる。本書に関して言えば、前者のコラボレーションの形であろうことは間違いない。(少なくとも僕は書いている途中に多くの刺激を倉下さんから頂いた)
■今日も頑張るあなたの明日を楽しくしたい
この本の目指したところは、読んで下さった方を手帳の達人にする・・ということではない。
目指したところは僕らの人生を、明日をより楽しくするということであり、その為に最もダイレクトに響くであろうセルフマネジメントと、それを司るツールである手帳にフォーカスした形となる。
僕自身、手帳との付き合い方を考え直し、セルフマネジメントを再構成したことで、人生に大きな変化を起こすことができたと考えている。前述した「前進感」であったり「コントロール」といったことも勿論あるし、その結果多少なりとも自分が向かいたいと思っている方向に向かうことができるようになったという「結果」の部分も大きい。今は胸を張って仕事を含む、毎日が楽しいと言い切れる。
是非一度、書店等でお手に取ってみて頂ければ幸いです。