この頃ではビジネス書ばかり読んでいて、小説を読むということをとんとやらなくなった。
大学を卒業するまでは、殆ど小説しか読まなかったのだけど、大学生の頃に読んでいたのがミステリーと歴史物。京極夏彦と陳舜臣が特に好きだった。純文学も多少はかじったが、好きと言うほどではなかった。
正直なところ、ビジネス書の文章に感情を揺さぶられることは少ない。新たな概念を獲得したり、自分の思想行動に影響を受けそうな情報と出会ったときなどは高揚感を得ることもあるが、それは感動の類ではない。
僕にとって面白いと感じる小説。それを言葉で明確に説明するのはとても難しいが、いくつか要素の様なものは存在する。
頭の中に響く登場人物たちの声、動画の様に再生される情景と姿形、僕の気持ちを支配する文字に表れていない感情や空気感。
明確にこれ、という定義はないが、面白いと感じた小説を読んでいる間、僕の頭の中は実に賑やかで、心は踊り、あらゆることを差し置いて、その世界に没頭したいという欲求に駆られている。
今回紹介する「ホーンテッド・キャンパス」は、久しく忘れていた「小説の世界に没頭したい欲求」を思い出させてくれた作品であり、掛け値なしに今年読んだ本の中で一番面白かった。
現在6巻まで刊行されているのだけど、本を読むスピードがそれほど速くない僕が、通勤時間の全てと睡眠時間の一部を捧げ、1週間も掛からず全巻読破したことからも、かなりご執心だったことが分かる。
■青春ライトホラー小説「ホーンテッド・キャンパス」
冒頭で述べた通り、かつて京極夏彦にハマっていた僕の感覚からすれば、この小説のホラー要素は限りなく薄い。しかしながら、この小説に怪異の存在は不可欠であり、描かれる怪異それ自体は実に新鮮で本格的だ。
舞台は地方大学のオカルト研究部というサークル。一巻あたりに4,5話が収録されており、各話ごとに”相談”という名の怪異が持ち込まれ、ストーリーが展開する。
主人公の八神森司(やがみしんじ)は、恐がりなのに幽霊が視えてしまうという体質の持ち主で、そんな自分の能力に辟易としている。その上、性格は超がつくほどのへたれときている。
物語は、森司が大学に入学してしばらくして後、2年越しの思い人である灘こよみと再会する所から始まる。
こよみが旧知のオカルト研究会部長、黒沼麟太郎から「念のために入部しておいた方がいい」と言われ、オカルト研究会に入部したことを聞かされ、森司は2年前のある情景を思いだし、自身も入部を決意する。
時にはどろどろした人間関係や、近代から現代にいたるこの国の暗部についても取り上げながら、”相談”という形で持ち込まれた怪異を解決していくことで物語が進む。時折表れる、怪異に好まれるこよみと、彼女を守るためにへたれの壁を越える森司の構図。
物語が進むにつれて、森司とこよみにも進展が・・・と思いきや、この2人、フラグをたたき折り、シグナルを無視しまくるので、ちっともラブコメっぽくはならない。だけど、そのモヤモヤした感じもまた、ある種リアルな青春像の様に感じられて、何度となくこう漏らす羽目になる。
あー、くそ。俺もこんな大学生活送りたかった!!
■早く次回作が読みたい、という感覚
繰り返しになるが、この小説を読む中で久しぶりに「小説の世界に没頭したい欲求」を思い出すことができた。早く次回作が読みたいと思ったのも、随分久しぶりな気がする。
勿論、好き嫌いは分かれると思う。ラノベなどでラブコメを読む人にとっては、この展開はもどかしいかもしれないし、角川ホラーファンにとっては、ホラーもミステリーも甘口すぎるかもしれない。
どこかけだるく、どこまでも自由で、自分の無力さを嘆きつつ、これから何だってやれるんだという根拠のない自信とぎらついた希望だけが財産だった大学時代。下手くそだけど、一生懸命な生き方が自然にできていた様にも思うし、それ以上に、沢山のへたれな決断を下して沢山の後悔を残した。
人それぞれ、色んな青春時代を過ごしてきたわけだから、きっと、僕がこの小説を読んで感じたノスタルジーや「わかるわーー」という悶絶を、誰もが感じるわけではないのだろうと思う。
それでも、もしかすると、誰かがこの小説を読んで「くーーー」と唸るかも知れないその可能性に賭けて、僕は胸をはってこの小説を「面白かった!」とオススメしておこうと思う。